研究計画

平成26年度厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患政策研究事業)交付申請書抜粋

研究課題名(課題番号): 特発性造血障害に関する調査研究(H26-難治等(難)一一般-062)
研究代表者 :黒川峰夫(東京大学)
研究事業予定期間 :平成26年4月1日から平成27年3月31日まで1年計画の1年目

研究組織

①研究者名 ②分担する研究項目 ③最終卒業校・
卒業年次・学位
及び専攻科目
④所属研究機関
 及び現在の専門
(研究実施場所)
⑤所属研究機関における職名
黒川 峰夫 研究全体の総括・
骨髄異形成症候群
東京大学大学院医学系研究科・
平成7年修了・医学博士
血液内科学
東京大学大学院医学系研究科
血液・腫瘍内科学
(血液・腫瘍内科)
教 授
小澤 敬也 骨髄異形成症候群 東京大学 医学部・
昭和52年卒・医学博士
血液内科学
自治医科大学医学部血液内科学、遺伝子治療学(血液学部門) 客員教授
金倉 譲 溶血性貧血 大阪大学 医学部・
昭和54年卒・医学博士
血液内科学
大阪大学大学院医学系研究科
血液・腫瘍内科学
(内科学講座)
教 授
中尾 眞二 再生不良性貧血 金沢大学大学院医学研究科・
昭和59年修了・医学博士
血液内科学
金沢大学医薬保健研究域医学系細胞移植学
(内科学講座)
教 授
澤田 賢一 再生不良性貧血(赤芽球癆) 北海道大学 医学部・
昭和51年卒・医学博士
血液内科学
秋田大学医学部
血液・腎臓・膠原病内科学
(内科学講座)
教 授
赤司 浩一 骨髄線維症 九州大学 医学部・
昭和60年卒・医学博士
血液内科学
九州大学大学院医学研究院
血液内科学
(病態修復内科学)
教 授
宮崎 泰司 骨髄異形成症候群 長崎大学 医学部・
昭和61年卒・医学博士
血液内科学
長崎大学原爆後障害医療研究所
血液内科学
教 授
高折 晃史 骨髄異形成症候群 京都大学 医学部・
昭和61年卒・医学博士
血液内科学
京都大学大学院医学研究科
血液学・ウィルス学
教 授
岡本真一郎 造血幹細胞移植 慶應義塾大学 大学院・
昭和58年修了・医学博士
内科学
慶應義塾大学医学部
血液内科学、移植
(内科血液研究室)
教 授
中畑 龍俊 小児科領域 信州大学 医学部・
昭和45年卒・医学博士
小児科学
京都大学iPS細胞研究所臨床応用研究部門(再生医学) 特定拠点教授
神田 善伸 造血幹細胞移植
移植免疫
東京大学大学院医学系研究科平成9年卒・医学博士
血液・腫瘍内科学
自治医科大学医学部
自治医科大学附属
さいたま医療センター
(血液科)
教 授
太田 晶子 再生不良性貧血 山形大学 医学部・
平成7年卒・医学博士
公衆衛生学
埼玉医科大学医学部
公衆衛生学・疫学
(公衆衛生学講座)
准教授

概要

本研究班では再生不良性貧血、溶血性貧血、骨髄異形成症候群(不応性貧血)、骨髄線維症を対象として疫学・病因・診断・治療・予後などの幅広い領域にわたって全国規模の調査研究を推進する。そのために各疾患において症例登録システムを充実させ患者の実態把握を行い、海外の研究との比較も取り入れ、本邦の実態に即した治療法の開発・最適化の探索に努める。得られた知見は、診断基準の策定や「診療の参照ガイド」の改訂作業を通じて広く臨床の場で利用できるようにする。また市民公開講座の開催や患者の会との連携を通じて国民に還元する。1.再生不良性貧血:疫学調査による診断・治療実態の把握、成人・小児例の比較と小児例の実態調査、免疫病態を反映するHLAクラスIアレル欠失血球の検出頻度を明らかにする。赤芽球癆について治療確立に向けた前方視的登録を構築する。2.溶血性貧血:発作性夜間血色素尿症(PNH)では国際PNH専門家会議や、日本PNH研究会との連携による全国規模の患者登録体制の確立、診断検査の一元化と抗体医薬の使用法の標準化を行う。自己免疫性溶血性貧血の特殊例や難治例の解析を進める。3.骨髄異形成症候群:形態の中央診断を伴う一元登録と追跡調査を進め、病型診断、予後予測、治療効果を解析する。また国際的な予後予測システムの国内への応用の検討、小児期造血不全の実態解明も推進する。免疫抑制剤、DNAメチル化阻害剤、レナリドミドなど新たな治療薬の効果を検討し、適切な使用法を明らかにするとともに、奏効性を予測する因子を探索する。小児からの移行症例の追跡調査を行う。4.骨髄線維症:前方視的患者登録の継続、前線維期の実態調査による早期診断の可能性の探索、適切な治療法の選択や予後予測因子の検証、自覚症状調査を行う。前線維期骨髄線維症についても調査を行う。5.造血幹細胞移植:移植の実態調査を行い、患者の社会復帰を目指した質の向上とリソース利用の最適化を追究する。特発性造血障害の治療決断に関するデータの二次利用解析系の構築を行う。

研究の目的、必要性及び特色・独創的な点

本領域では新たな疾患概念が明らかになる一方で、未解決の課題も数多く残され、疾患の実態把握や的確な診断・治療法の確立が求められている。そこで本研究班では今までの調査研究を発展させ、本領域の疫学・病因・病態・診断・治療・予後などを包摂した研究を推進する。わが国を代表する専門医の力を結集し、疫学の専門家、全国の診療施設や関係学会の参加の下に、各疾患の症例登録システムの構築・運用を行い、大規模な疫学データを収集・解析することで疾患の把握・解明を行い、診断基準の策定やガイドラインの作成を目指す。具体的には、これまでの調査に基づき赤芽球癆の治療法を確立するとともに、特に難治性赤芽球癆の治療法解明を目指す。再不貧患者において免疫学的な病態が、患者全体のどの程度の例で関与しているかを明らかにするため、HLA-クラスIの欠失解析をHLA-B、Cアレルに広げで前向きな調査を行う。再不貧とMDSについて一元的な多施設症例登録と中央診断制度を継続し両疾患の臨床像と治療成績の把握、診断一致率の向上、ならびに標準的治療法の開発のための基礎資料とする。またより良い治療戦略の策定のために国内症例の臨床的予後因子、欧米症例と本邦の症例との差を検討する。低形成性MDSや家族性MDSの病態の解明を行う。骨髄線維症については二次性・前線維期の型の症例調査を行い間質細胞が病態形成に果たす役割も解明する。また本領域では新規治療法が数多く登場しつつあるため、本研究では国際的な視点とわが国の実状に即した視点の双方から新規治療法の適切な使用法や効果予測因子を探索する。具体的には発作性夜間血色素尿症に対する補体阻害薬の使用方法・本邦固有の現象である補体遺伝子変異による補体阻害薬の不応例の解析MDSに対するDNAメチル化阻害剤、レナリドミドの病型別効果などを検討する。造血幹細胞移植のリソース利用の最適化のために、適応や実態について、関係学会とも連携して検討する。特にMDSに対する造血幹細胞移植後の免疫能と移植後の臨床経過との関連について解析し、将来的な細胞療法の開発を目指している。これらの成果は疾患別「診療の参照ガイド」の改訂を行い、全国の診療施設で利用可能とする。

期待される成果

  1. 再生不良性貧血:調査票の改善による患者実態の把握が進む。免疫病態が関与する例がどの程度存在するかが明らかとなることにより、診断法と治療成績の大幅な向上が期待できる。難治性赤芽球癆に対する治療法の確立が期待できる。
  2. 溶血性貧血:発作性夜間血色素尿症(PNH)では診断が一元化し、病期進展の解明と補体阻害剤の適切な使用法が明らかとなる。
  3. 骨髄異形成症候群:一元登録システムで本邦症例の臨床的特徴と予後因子が明らかとなることで適切な治療法を選択できるようになる。造血不全において鉄過剰が果たす意義が明らかになる。病態進展や発症リスクの予測が可能となる。
  4. 骨髄線維症:新規治療法開発に向けて本邦における疾患データが蓄積される。長期予後、予後予測因子、造血幹細胞移植の成績が明らかになる。
  5. 造血細胞移植では実態調査や免疫能解析を通じて社会復帰を目指した質の向上や移植リソースの有効利用や、移植後の感染症原疾患の再発に対する細胞療法の開発を目指す。その他:疾患別「診療の参照ガイド」の改訂を行い、全国の施設における診療に役立てる。

研究計画・方法

本領域でわが国を代表する専門家に、研究分担者・研究協力者として全国から参加を得て、密接な連携のもとで全国規模の共同研究を推進する。

  1. 再生不良性貧血(再不貧): ①前向きに登録される再生不良性貧血患者を対象として、HLA-B、Cを含むHLAクラスIアレル欠失血球の有無を前向きに検出し、再生不良性貧血全体において免疫病態が関与する例の割合をあきらかにする。(中尾)。②類縁疾患である赤芽球癆の病因解明と治療法確立を行う。赤芽球癆の標準的治療の確立のために前方視的登録システムを構築する。難治性赤芽球癆の追跡調査を行う。 (澤田)。③日本小児血液・がん学会の協力の下、わが国で発症する小児再生不良性貧血、骨髄異形成症候群などの造血障害の新規発症例の把握およびフォローアップスタデイ―を行い、小児の再不貧の実態調査を進め、病態や治療に対する反応性を成人と比較検討する(中畑)。④再不貧の臨床調査個人票の解析を進め、その臨床疫学像を把握し分析・活用の疫学的方法論・有用性を評価・検討する。個人票様式の問題点があれば改訂を提案する(太田) 。
  2. 溶血性貧血:①発作性夜間血色素尿症(PNH)に関して、(a)国際PNH専門家会議において患者登録や情報交換を行う。(b)日本PNH研究会と連携し、診断検査の一元化、全国規模の患者登録体制を推進する。(c)新規補体阻害薬に関連した妊娠の管理、本邦固有の不応例の解析を進める。②自己免疫性溶血性貧血に関してクームス陰性例と難治例の追跡調査による臨床背景の解析を行う(金倉)。
  3. 骨髄異形成症候群:①わが国における再不貧、骨髄異形成症候群(MDS)ならびにその境界例を一元的に登録し、形態診断のセントラル・レビューをさらに推進し、追跡調査を加えながら症例の自然経過や治療の結果を解析する(高折)。②低リスクMDS患者で免疫抑制療法を行い、クローン性造血所見の有無などと血液学的改善効果の関係を検討する。(小澤)。③改訂国際予後スコアリングシステム(IPSS-R)の国内症例を対象とした有用性を検討する。(宮崎)。④小児期発症の各種造血不全の病態や治療に対する反応性を明らかにし、成人例と比較する(中畑)。⑤DNAメチル化阻害剤、レナリドミドなど新規薬剤の効果を検討する。また薬剤奏効や病期進行を予測するバイオマーカーを探索する(黒川)。⑥MDS発症前の血液異常について調査を行い、適切な早期診断、フォローアップの方法確立と発症ハイリスク群の同定を目指す(黒川)。⑦家族性MDSの全国調査を行う(黒川)。
  4. 骨髄線維症: 現行の前方視的患者登録を継続・発展させる。①「前線維期」の骨髄線維症のわが国での実態を明らかにする。②前方視的登録症例登録を継続し、長期予後、予後予測因子を明らかにする。③現状の治療実態の把握と、造血幹細胞移植の治療成績を明らかにする。④国際標準の評価法を用いて骨髄線維症の自覚症状調査を行う。⑤予後因子の明らかでない二次性骨髄線維症についても調査を行い、実態を明らかにする。 (赤司)。
  5. 造血幹細胞移植: ①日本造血細胞移植学会のデータベース、関連研究グループとの共同研究、班員及び研究協力者の施設を対象とした調査によって情報を取集する。 (岡本)。②特発性造血障害の治療決断に関するデータの二次利用解析系の構築を行う(神田)。

倫理面への配慮

全国規模の臨床情報の調査にあたっては、「疫学研究に関する倫理指針」に基づき、患者の人権擁護と個人情報保護の観点から資料の収集と取り扱いに十分留意する。公費負担対象疾患の臨床調査個人票データの取り扱い保管は、評価委員会の勧告に従う。前方視治療研究、病態研究では、「臨床研究に関する倫理指針」に基づき、研究者の所属施設毎に施設内倫理審査委員会に諮り、事前に承認を得る。その他の医学研究あるいは患者検体の収集と利用に関しては、十分な説明の上、患者の自由意思による同意(インフォームド・コンセント)を取得する。治療研究に伴う健康被害対策としては、班研究者は医師賠償責任保険に加入する。研究の進行中に遭遇した重大な健康危険情報に関しては、研究代表者を通じて速やかに報告することを周知徹底する。